テスト方法
このような技術革新は(補聴器本体に内蔵されている)ICチップ性能の向上と関連しています。先進のICチップは、20ビットの入力ダイナミックレンジに対しても効果的に機能し(113 dB SPLの純音の入力音をひずみなく処理することができます)、このことは、部分的には、A/D変換に先立つ入力圧縮処理にも関係しています。
この革新的技術の組み合わせは、オーティコンのオープン補聴器で実現されていますが、音楽経験がない10人と音楽経験豊富な10人をそれぞれ被験者として、この革新的技術について正式な評価を実施しました。いずれの被験者も経験豊富なベテランの補聴器装用者です。
音楽経験のない補聴器装用者、及び音楽経験豊富な補聴器装用者の2群に分れ、無作為に「旧技術」または「新技術」を搭載した補聴器を装用してもらいました。本実験の実施に際して、補聴器は、被験者それぞれの難聴の程度に合わせて適切に調整し、実耳測定で補聴器調整を検証しました。
被験者が装用する補聴器が「旧技術」と「新技術」のどちらを使用しているのかという情報は、被験者にも補聴器の調整を行う専門家にも知らされませんでした。「旧技術」補聴器では、「A/D変換器前の圧縮器」も「16ビットアーキテクチャの後継」といった「新技術」補聴器にあるいずれの技術も搭載されていませんでした。
各被験者は自身の補聴器を1週間装用後、「旧技術」または「新技術」搭載補聴器を調整装用し、無作為に研究群に割り振られました。
「旧技術」または「新技術」搭載補聴器装用は4週間続けられ、研究の最終段階までに各被験者は2週間の「旧技術」補聴器装用と2週間の「新技術」補聴器装用を無作為な順序で経験しました。
1週間の補聴器装用が終わるごとに、被験者には、コンピュータ版のDOSOスケール(Device-Oriented Subjective Outcome、装置と主体とした主観的成果)が補聴器評価のために実施されました *3。
DOSOスケールについては、開発者で、現在は米国メンフィス大学教授(The university of Memphis, Professor of Audiology)であるRobyn M Cox氏らが論文の727ページに下記のように報告しています。「補聴器装用者を主体とした成果と比較すると、装置を主体とした成果の方が、人間の人格による影響をより受けにくい傾向がある。」
DOSOスケールでは、その週に装用していた補聴器とその前の週に装用していた補聴器の、2つの補聴器を比較評価しています。研究の最初の1週間は被験者自身の補聴器との比較となりました。
データのばらつきを最小限にするため、これらの差異測定は被検者ごとに行いました。したがって、各被験者には2つは 「旧技術」についてのDOSO、あとの2つは「新技術」についてのDOSOで、合計で4つのDOSOスケールが実施されました。
DOSOスケールの項目は40あり、6つのサブスケールに分けられ、各サブスケールのデータが得られます。サブスケールは、スピーチキュー(特定の音環境で会話聞き取りのヒントとなる音が聞こえている)、聞き取り労力(音が明瞭で楽しめる)、静寂性、快適性(音質)、利便性(ユーザーフレンドリー)、と使用感です。DOSOスケールの最後の3つの質問は、使用パターンに付随する項目ですが、本研究はコントロールされた研究であり、このサブスケールについては差異が生じないと思われたため省略しました。利便性については、評価は行ったものの、被験者すべてが装用経験豊かなベテラン補聴器装用者であったため、追加情報は得られませんでした。