知っていますか?「リスニング・エフォート」
子どもの”聞き疲れ”による学習のしんどさに適切なケアを
~茨城大学&オーティコン補聴器の共同主催、11/13より啓蒙動画を配信~
茨城大学 教育学部 障害児生理学研究室(茨城県水戸市)と、110余年の歴史を持ち、デンマークに本社を置く補聴器メーカー、オーティコン補聴器(本社:神奈川県川崎市、プレジデント:齋藤 徹、以下 オーティコン)が共同主催し、「リスニング・エフォート」の理解に向けた取り組みをインタビュー形式でわかりやすく解説したオンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」を、11月13日(月)より配信します。
【リスニング・エフォートとは】
「リスニング・エフォート(Listening Effort:以下、「LE」)」という言葉をご存じでしょうか。近年、海外を中心に聴覚障害児教育の分野から関心が高まりつつあり、学校生活を送る子どもたちの外見から捉えづらい疲れ、学習時の負担を把握し、適切にケアするための研究や実践が進んでいます。LEは、「聴覚情報を理解する際、妨害要因を乗り越えるために、意図的に心的リソースを配分すること」と定義されます。すなわち、聞き取りが難しい状況において、がんばって聴くために、聴覚経路だけではない様々な認知能力を総動員して話を理解するという行為を指し、年齢を問わず子どもでも大人でも見られる事象です。実際、雑音下で音声を聴取しているときの脳血流を測定すると、注意や記憶の操作を司る前頭葉の賦活が見られ、聴覚認知に関わる領域以外も積極的に活用しながら聴覚的に理解しているということが報告されています。
【子どもは大人よりLEを抱えやすい】
聴覚研究の最前線であるデンマーク工科大学の客員研究員を1年間勤め、LEに関する最新の知見を得た茨城大学教育学部の田原 敬 准教授は、「子どもは大人よりもLEを抱えやすい」と指摘します。また、聴覚障害のある子どもは、常にLEが高い状況、すなわち「がんばって聴いて理解している」状況にあります(図1)。聞き取りが簡単な状況では、聞いて理解しながら他の認知活動を行う余裕がありますが(図2左)、聞き取りが困難な状況では、聴覚的理解に集中するあまり他の認知活動を活用する余裕がなくなります(図2右)。それによってより深い理解や内容の記憶、マルチタスクへ等への対応ができず、結果として学習や発達に悪影響を与えかねません。
図2 聞き取りが簡単または困難な場合の子どもの心的リソース
LEによる疲労を評価する代表的な方法に、質問紙による評価や、実験中の被験者の瞳孔径を測定するといったものがあります。しかし、質問紙による調査においては、そもそも回答する子どもたち自身が状況をうまく捉えられていないという可能性があります。また、瞳孔径を測定する方法は、実験室でコントロールされた検査環境で実施する必要があり、子どもたちが日常生活を送る現実世界での影響を把握することはできません。そこで田原准教授らは、現在、日常生活の中で身に付けられるまばたきのセンサー機器などを活用した測定も試みているところです。
【LEへの注目の重要性】
LEという概念自体はこれまでにも心理学などの分野で言及されていました。しかし、近年の技術の進展によって、さまざまな評価方法が試みられるようになる中で、聴覚障害児教育の分野でも徐々に関心が広がり、研究や実践、LEに対応した補聴器などの支援機器の開発・普及が進み始めました。これからの難聴児、難聴者の適切な支援につなげていくためには、LEとは何かということをまずは理解することが重要です。
子どもたちのLEに関心が高まりつつある背景について、田原准教授は、「今世紀に入ってから、補聴器の技術が飛躍的に向上したほか、人工内耳の普及率も高まって、インクルーシブ教育が一気に進んだ。聴覚活用の可能性が高まった今日だからこそ、子どもたちにおける聴こえの質の差異、『聴こえるけど疲れる』という状態に関心を向ける必要が生じた。」と説明します。
田原准教授は、「学校ではがんばって聞いているけれど、自宅に帰ると疲れがたまって寝てしまったり、何もする気が起きないといった問題をもつ子どももいる。がんばって聞く子どもを褒めることや、そのように指導することが難聴の子どもの過度な負担になっているのではないか。こうした困難は、子どもたち自身も自覚できていない場合がある」と言います。その上で、「LEの研究はまだ始まったばかりで、わかっていないことも多い。LEの評価法を確立すると同時に、教育現場とも連携しながら具体的な支援の方法について提案していきたい。」とも話しています。
【オンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」について】
このたび配信をスタートしたオンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」は、茨城大学 教育学部 障害児生理学研究室とオーティコン補聴器が共同主催し、「リスニング・エフォート」の理解に向けた取り組みをインタビュー形式でわかりやすく解説したものです。
〈ポイント〉
- 外見や今までの聴覚検査では捉えることが難しい、難聴児や難聴者が会話の聞き取りに費やす頑張り・努力(LE)と、頑張って聞くことからくる疲れ(listening fatigue)の理解に向けての取り組みと重要性を、インタビュー形式でわかりやすく解説しています。
- 聞き手は茨城大学 教育学部 障害児生理学研究室 田原敬准教授、話し手は、田原准教授の共同研究者でもありLE研究の世界的な権威である、デンマークのエリクスホルム研究センター(Eriksholm Research Center) 主任研究員 ハミッシュ・イネズ・ブラウン(Hamish Innes-Brown)博士と岡山大学病院 聴覚支援センター 片岡祐子准教授です。
- 字幕付き動画で1回約10分、5回シリーズとなっており、すきま時間を利用してご視聴いただけます。
- 難聴児ケアに携わる教育・療育専門家や保護者の方をはじめ、医療・福祉専門家、補聴器販売に携わる方、そして聴覚分野に興味を持つ学生様や一般の方を対象とし、広くご視聴いただけるよう、費用は無料とし事前申し込みでどなたでも視聴可能です。
聞き手 |
茨城大学 教育学部 障害児生理学研究室 准教授 田原敬先生
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話し手 |
エリクスホルム研究センター 主任研究員 ハミッシュ・イネズ・ブラウン博士
岡山大学病院 聴覚支援センター 准教授 片岡祐子先生
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内容 |
第1回 |
聴覚研究の最前線! エリクスホルム研究センター
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第2回 |
音を聞くと疲れるって本当?(前半)
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第3回 |
音を聞くと疲れるって本当?(後半)
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第4回 |
思いどおりに補聴器をコントロールしたい!
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第5回 |
オージオグラムだけでは不十分?
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視聴期間 |
2023年11月13日(月)~2024年2月29日(木)
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申込締切日 |
2024 年1月31 日(水)17時まで
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申込方法 |
視聴に際しては、特設サイトからお申し込みください。
オンデマンド動画配信プログラム「きこえのミライ」特設サイト
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【オーティコン補聴器 プレジデント 齋藤 徹のコメント】
オーティコン補聴器は、「ブレインヒアリング」のコンセプトの基、先進の技術を搭載した補聴器の開発に務め、長年の間、補聴器装用下で聞き取りに要する努力(LE)が軽減しているのかどうかを瞳孔径測定で調査し、その結果を補聴器のエビデンスとして公開してきました。本動画プログラムがきっかけとなり、難聴のあるお子さんや難聴者の方が直面しているLEや聞こえからくる疲れに関し、理解がより一層深まることで適切な聴覚ケアに結び付くような、そんな「きこえのミライ」への一助となれば幸いです。
■茨城大学について
茨城大学は1949年創立の地方国立総合大学です。茨城県水戸市・日立市・阿見町に主要なキャンパスを有し、人文社会科学部・教育学部・理学部・工学部・農学部の5学部(2024年4月からは地域未来共創学環を加えた6学部・学環)と大学院4研究科で構成。東南アジア・南アジアとのネットワークを活かした気候変動科学の研究、地域の研究機関と連携した量子線科学研究、学生の学修実感を重視したボトムアップ型の教育マネジメントシステムなどを特徴としています。
■茨城大学教育学部障害児生理学研究室について
障害児生理学研究室(通称:生理研)は1977年に茨城大学教育学部に設立された研究室で、現在は勝二博亮 教授と田原 准教授が運営しています。生理研では、様々な障害児・者の感覚・認知機能をさぐるために、生体機能計測(脳波、事象関連電位、近赤外線分光法(NIRS)、筋電図、眼球運動、心拍、その他の行動指標など)を行い、エビデンスにもとづいた教育支援方法の開発を目標として研究活動に取り組んでいます。特別支援教育分野でこのような研究を実施している大学は限られており、最近では関連領域の中で歴史と権威のある日本特殊教育学会や日本聴覚医学会にて、研究奨励賞(3件)、実践研究賞、フューチャーリサーチアワードを受賞するなど、精力的に活動しています。
■ オーティコン補聴器について
オーティコン(Oticon)は、1904年にデンマークで創設された補聴器業界におけるパイオニアです。企業理念として「Life-changing technology(ライフチェンジング テクノロジー)」を掲げ、難聴による制限のない世界の実現を目指し、製品開発と聴覚ケアの普及に取り組んでいます。オーティコンは補聴器業界で唯一、聞こえと脳に関する基礎研究所を擁するメーカーであり、そこに在籍する聴覚学、脳神経科学、電子工学など様々な分野の研究者と、13,000人以上のテストユーザーによって、常に先進的で革新的な補聴器テクノロジーが生み出されています。オーティコン製品の最大の特徴は、脳から聞こえを考える「BrainHearing(ブレインヒアリング)」というアプローチです。「耳に音をどう届けるか」だけではなく、「脳が理解しやすい音を届けるにはどうするか」に着目した製品群は、第三者機関による確かなエビデンスに支えられ、世界100ヵ国以上で使用されています。日本でも1973年より補聴器の製造・販売を行っています。
■ デマント(Demant)グループについて
デマントは、1904年にデンマークのオーデンセで補聴器の輸入商から始まり、のちに補聴器の製造や診断機器、人工内耳事業へと参入していきました。現在、世界130か国以上でビジネスを展開しています。デマントは2つの点で世界唯一の企業です。第一に聴覚ヘルスケアにおける全ての分野をカバーしていること、第二に慈善財団(ウィリアム・デマント財団)が所有する聴覚ヘルスケア企業であることです。全デマントグループ20,000人強の従業員とともに、聴覚ヘルスケアや聞こえの改善の研究、製品開発を行っています。
*詳細はこちらをご覧ください。
【本件に関するお問い合わせ先】
■ 茨城大学広報室(主幹専門職 山崎一希)
TEL: 029-228-8008 E-mail:koho-prg@ml.ibaraki.ac.jp
■ オーティコン補聴器(担当: 橋本正輝)
TEL:044-543-0615 FAX:044-543-0616 E-mail:info@oticon.co.jp