その運動は、耳にとっても良い運動ですか?

その運動は耳にとっても良い運動ですか?

09/03/20

トレーニング器具

心地よいこの季節は身体を動かすのが楽しい時期でもあります。思い返せば年の初めに今年こそは身体を鍛える一年にするぞという誓いを立てた方、今年の夏に向けてそろそろ本格的に身体作りをはじめようという方、ただ単純に健康のためのエクササイズを考えている方もいらっしゃると思います。

エクササイズが心身の健康増進に役に立つことは言うまでもありませんが、聞こえの健康のために少しだけ耳を傾けていただきたいことがあります。新たなフィットネストレーニングを取り入れることが、ときに聞こえにリスクをもたらすこともあるということです。

Could your exercise program be causing hearing loss?| 米国HealthyHearing 2019年5月22日掲載より日本向けへ加筆再構成

運動強度を高めたトレーニングの存在

プッシュアップする人

さまざまなエクササイズの中で全米を中心に熱狂的なファンを増やしつつある運動強度を高めたフィットネスプログラムの一つに「クロスフィット(CrossFit)」と呼ばれるトレーニングがあります。このような高い運動強度を持ったトレーニングは注意を怠ると、聞こえにとってよくない結果をもたらすこともあります。

クロスフィットとは、もともとは警察や軍の特殊部隊などで採用されていたウェイトリフティング、カーディオと呼ばれる有酸素運動トレーニング、体幹トレーニングやその他有酸素、無酸素運動を織り交ぜたトレーニングを指します。クロスフィットは、身体を自分自身で挑戦できる限界まで追い込むトレーニングによって、身体能力を非常に高いレベルまで引き上げることが可能になります。一方でこれらのトレーニングで、高い代償を払うことになった人々がいることも忘れてはいけません。

またクロスフィットに限らず、ウェイトを用いたトレーニングを習慣にされている方もご一読ください。

【写真】トレーニングの最中に力んだり、息を止めることは、耳の奥、内耳の空気圧を上げることにつながる

避けるべき二つの習慣

ここまで読み進まれてきた方には、「エクササイズがどう耳に影響を与えるのだろう?」と思うかもしれません。例えばクロスフィットトレーニングで行われる、ウェイトリフティングに関連した二つの動きについてみていきましょう。

  • 一つ目は力んだり、息んだりすることです。力みは、頭蓋内圧に影響を与えます。力みによって頭蓋内圧が上がり、結果的に耳にも圧がかかります。
  • 二つ目は息を止めて力むことです。

ウエイトリフティング(重量挙げ)においては、気合とともに息を止めて筋肉を固め、背骨を支えることで限界を超えるための力を出そうとします。でも息を止めるということでどういうことが起こるでしょう?息を止めると耳の奥にある内耳の圧力も増加するのです。 通常であれば、耳の中(訳注:鼓膜より奥の部分)の気圧と周囲の気圧は基本的に同じになる、もしくはトラブルの原因になるほどの差異は生じません。

問題が生じるのは、ただひとつ急激な変化により中耳の空気圧と外の空気圧を均一にすることができないときで、力みもこの状態を引き起こす原因の一つです。

負荷をかけた運動中に耳に起こっていること

内耳の気圧が上がることは、激しい運動中や運動後の聞こえに変化を生じさせ、耳の病気の一つである外リンパ瘻(PLF)のを引き起こす可能性があります。PLFとは、ふとしたことで突発的に発症するため、多くの人々はすぐには気が付かないことがあります。ここでお話しをするのは激しい運動との関連ですが、くしゃみや咳、重い荷物を持ち上げるなどを機に発症することもあり得るとのことです。

ごくシンプルに説明をするとPLFとは、耳の奥の内耳に存在する窓(正円窓と卵円窓)への損傷で発症します。この窓は普段は閉じているものですが、力みによって内耳の圧が上がることで、この窓に穴が開いてしまうのです。聞こえの変化は、力んだり息んだりが続く激しいワークアウトによってこの穴から外リンパ液とよばれる液体が中耳に漏れることによって生じます。

クロスフィットのような激しい運動だけの問題ではありません

もちろんクロスフィットだけが悪いわけではありません。お伝えしたいことは、クロスフィットトレーニングなどに代表される激しいトレーニングの多くでは、自身の限界を目指していくことが奨励されていますが、どうぞ今一度聞こえへのリスクについても関心を寄せていただけたら幸いであるということです。

ランニングや高い集中力を必要とするヨガのポーズ、またスポーツジムでのエクササイズもまた聞こえの問題につながる可能性はあります。ウェイト器具類がたてるガチャンという大きな音や大音量のBGMなどはスポーツジムではおなじみの光景ですが、こういった衝撃音や騒音はときに騒音性難聴や耳鳴りなどの原因になり得ます。

実際のところ、ウェイトトレーニングを行う部屋で聞こえるガチャン、ガチャンという音の騒音がどのくらいの音量なのかなど測ったことはありませんでした。しかしながらウェイトが落下するなどして起こる一瞬の大きな音であっても、その騒音は銃の発射音や車のエアバッグが開くときの衝撃音に匹敵するほどのレベルであり、潜在的には難聴へつながる因子といえます。事実、ウェイトのガチャンという衝撃音の音量は、感音性難聴や耳鳴りといった、爆音にさらされることで引き起こされる難聴につながりかねない音量だということです。

米国バルチモアのマーシーメディカルセンターに勤務し、フィットネスインストラクターとしても公的な資格を持つ、オーディオロジスト(聴覚ケアの専門家)レイチェル=ラファエル氏のコメント

健康な聞こえのために運動中にすべきこと、すべきでないこと

Do! すべきこと
  • Do!:運動の前後に何らかの聞こえの変化を感じた場合は直ちに耳鼻咽喉科を受診して下さい
  • Do!:ベンチプレスや、ウェイト等を使用するトレーニングをする際には、力みの負荷を減らすためにウェイトは少し軽めのものを選択しましょう。力みによって生じる内耳圧を減らすことは、PLF(前述)の発症のリスクを軽減します。ウェイトの正しい使い方についてスポーツの専門家のアドバイスを仰ぐのも一つのアイデアです
  • Do!:運動中や運動後に聞こえの問題を感じた場合、聞こえに影響を与えないためにはどのような運動レベルが適切なのか専門家に相談する
  • Do!:スポーツジムなどでの聞こえを守る。ジムで流れるBGMの音量が大きすぎる場合は耳栓を!またお気に入りの音楽をヘッドフォンなどを通じて楽しみながら運動する場合は、騒音からの長期的な影響をさけるためにも、ぜひ適切な音量を心がけましょう
  • Do!:年齢や経験に応じて、ウェイトリフティングやベンチプレスのような力みが必要なエクササイズは減らしましょう
Don't すべきでないこと
  • Don't!:より力を入れるために息を止める。息を止めることは耳の中の圧を高めてしまいます
  • Don't!:ウェイトリフティングやベンチプレスをはじめとする重量系のトレーニングで力むこと
  • Don't!:もし聞こえに変化を感じている場合、また過去に内耳に関連する病気の経験などがあった場合、ボクシングや、レスリングといった頭部に直接衝撃を与えるようなスポーツは避けましょう
  • Don't!:ウェイトリフティングの際などに、ウェイトを大きな音を立てて落としたり、乱暴にこれらの器具を元の位置に戻そうとすること。これらの衝撃音は時に140デシベルにも達し、爆発音や銃声音などにも匹敵します
  • Don't!:症状を我慢したり、そのままにしておけば大丈夫と無視してしまうこと。小さなことでも聞こえに変化を感じたら医療機関へご相談下さい

専門家の助けを借りるべきなのはどんなとき?

ウォーキングする人

激しい運動を行った後に耳に圧迫感やこもり感を感じたり、めまいやふらつきといった症状を感じた場合は明らかに何かしらの問題が生じている可能性があります。ためらうことなく医療機関を訪れて下さい。

さていろいろお話をしてきましたが、まずは身体を実際に動かしてみることが大切です。ウォーキングやストレッチなど比較的簡単に始められる運動もたくさんあります。ただしどのようなスポーツをなさる場合でも健康な聞こえを守ることをお忘れなく!

出典・コンテンツに関するお問い合わせ

【本件に関するお問い合わせ】 デジタルマーケティング (林田)、プロダクトマーケティング(渋谷)

本記事は米国Healthy Hearingにて掲載された記事を、一般的な情報提供を目的として意訳、また日本国内の事情に沿うように加筆再編成したものです。本記事のコピーライトは healthyhearing.com並びにOticonに帰属します。本記事内に掲載された名称は、それぞれ各社の商標または登録商標です。また、出典や参照元の情報に関する著作権は、healthy hearingまたはOticonが指定する執筆者または提供者に帰属します。

引用元について:Contributed by Joy Victory, staff writer, Healthy Hearing | 2019/5/22

英語版は下記から参照いただけます:http://www.healthyhearing.com/report/52610-Could-your-exercise-program-be-causing-hearing-loss