オーティコンは、音の変化が心拍数に与える影響と、騒音によるストレスが適切に調整された補聴器によって軽減される可能性とが関係していることを発見しました。
オーティコンは補聴器によって、音、特に騒音が引き起こすストレスを軽減できる可能性があるという新たな研究結果*1を、オーティコンの基礎研究や製品技術に関連する研究拠点である、エリクスホルム研究センターと共同で、本年3月に発表しました。この研究結果は、将来のデータ駆動型補聴器(収集されたデータを基に次のステップや機能動作が予測決定されるようなユーザーに寄り添う補聴器)が持つ可能性を示唆し、適切に調整された補聴器が心拍数の上昇を抑える手助けとなる日が来るのではないかということを予感させます。
オーティコンでは、人は脳で聞いている、という聞こえと脳の働きに注目したBrainHearing(ブレインヒアリング)を製品開発の理念にかかげています。難聴によって脳に届く音の情報が不十分になると、難聴者は足りない情報を補うために脳をより一層働かせます。難聴者は聞くために努力し脳への負荷が大きくなるので、この脳への負担を軽減することを目指し、BrainHearing(ブレインヒアリング)研究プログラムが継続的に実施されています。
この研究の一環として、エリクスホルム研究センターでは、私たちが暮らしている音の世界をこれまで以上に深く掘り下げ、多様に変化する音が健康にどのような影響を与えるのかを理解するための新しい研究に取り組んでいます。
私たちは日常的に様々な音に囲まれています。自分の意思で聞きたいと思う音(例:音楽を聴く)もあれば、交通騒音といった避けたい音もあります。環境音は、日常生活と切り離せない一方で,音響的側面から、これらの音が人体にどのような影響を与えるかは生活音の聴覚への長期的な影響*1といった研究を越えては、ほとんど知られてきませんでした。
一方で,「騒音」に分類される音は,直ちに聴覚に対し物理的な障害を引き起こすことが知られている爆音といった騒音に限らず,人間の聴覚だけでなく心臓といった循環器系に対しても悪影響を与えるという認識が高まっています*1。 WHO欧州地域事務局が近年発表した報告書では、騒音ストレスと、心血管反応との関係について触れられています*2。
この新しい聴覚研究には心臓の健康に関する研究も、含まれています。エリクスホルム研究センターでは、音によるストレスがあるか、聞くために努力しているのかを判断するために、瞳孔の拡張度合いを測定し、実験室や現実世界で人の心拍数を測定したりしました。その結果、効果的な補聴器技術と正しいフィッティングの重要性が示唆されました。
実験室での研究*1では、特にノイズがある環境で会話を聞く際にストレスが増大することが発見されました。この問題に対し、「オーティコン オープン」を使用した研究では、オープンに搭載された機能によりノイズが抑制され高音質な音を届けることで、ノイズに対するストレス反応の低減に役立ったことが実証されました。
次にオーティコンは、実験室を飛び出し、音が健康にどのような影響を与えているのか、現実世界の音環境で研究を行いました*2。オーティコンは、専用アプリであるOticon ONアプリ*を介してインターネットに接続された補聴器の音響データの記録と、ユーザーのウェアラブル機器(スマートウォッチといった体に装着した機器)を通じて得られた5分間隔での連続した平均心拍数にアクセスすることで、現実世界で発生している音が心拍数にどのような影響を与えるか、また音の変化によって人の心拍数がどの程度増加するかを確認しました。
現時点でのオーティコンの新しい研究結果によると、収集されたデータの分析を通じ実生活での音は、一日の平均心拍数の変動の約4%に影響しているということがわかりました。最も際立った注目すべき結果は、大きな音が聞こえている間は平均心拍数が増加する一方で、S/N比が高く音質が良好な状況では、音が大きくてもこのストレス反応が減少し、平均心拍数が低下するということでした。
ここで言うS/N比とは、聞き取ろうとしている音声信号(Signal:シグナル)と背景騒音(Noise:ノイズ)とのレベル比を示す値です。S/N比の値が高くなればなるほど、音声のレベルが騒音(ノイズ)レベルよりもより大きくなるので、音声が聞き取りやすい状況になります。
日常的な音がもたらす心血管ストレスとの関係は、これまで認識されていなかった混合的な影響、つまり音の大きさへの考慮だけではない複雑なものであるということです。今回の結果は、人間の生態生理学における周囲の環境音との関連性を明らかにするものです。
研究結果から、聴覚技術を利用して音声の聞き取りに不要な背景騒音を抑えながら、周囲からくる聞き取りに大切な音を強調することで、毎日の心臓の健康維持に貢献するといったことが実現できると言えるのかもしれません。
オーティコンの最新シリーズ製品「オーティコン モア」は、オーティコン オープン/オープンSシリーズで実現した360度の聞こえからの更なる進化として、高度な騒音抑制機能と人の脳の機能を模した高度な人工知能の一つであるディープニューラルネットワーク(DNN)を補聴器本体に組み込んだ補聴器シリーズです。オーティコン モアでは、脳の聞く働きを最適化するために、本来自然な聞こえの実現のために必要とする周囲全ての音の情景を脳へと届けます。
2016年にオーティコン オープンが登場するまで、補聴器は処理能力の限界から、指向性という技術を用いて補聴器ユーザーが一度に聞くことのできる音を根本的に制限していたのに対し、オーティコン モアでは全く新しい信号処理技術によって難聴をサポートすることで、ユーザーがより自然に会話や音を聞き取れるようにするだけでなく、それらの音を「快適に」聞くことができるようにすることで、聞き取りに要する努力やストレスの軽減に最適な状態を作り出します。
さらにオーティコンの実世界での研究から得られた知見は、この快適な聞こえの実現が、ユーザーが日常的に直面する騒音環境下における心臓に関連した健康面にもプラスの影響があることを示唆しています。
オーティコンのエリクスホルム研究センターの研究者であるイェッペ・へイ・クリステンセンは、次のように述べています。
「会話を理解しようとする時に騒音は、通常不要な音であることが多く、このような騒音は健康面から考えても良いものではありません。実験室での研究とユーザーの実生活における研究結果をリンクさせ、補聴器技術を通じてユーザーにとって意味がある大切な音を強調しながら騒音を効果的に軽減することで、補聴器ユーザーの脳だけでなく心臓の健康も改善する手助けができるようになる可能性があると考えています。私たちの研究は、常に補聴器技術の向上を目指しており、今回のような重要な発見を誇りに思っています。今回の研究で得られた知見は、ヘッドホンなどの他の聴覚製品メーカーが、ユーザーの健康に役立つ新技術を採用することに役立つかもしれません。」
* この実験のデータ収集に際してオーティコン オープンユーザーは、オーティコン補聴器が匿名化されたデータを研究目的で使用することに同意し、GPS位置情報へアクセスすることを事前に許可しています。
*1 The everyday acoustic environment and its association with human heart rate: Evidence from real-world data logging with hearing aids and wearables(英文)
https://www.researchgate.net/publication/349367056_The_everyday_acoustic_environment_and_its_association_with_human_heart_rate_Evidence_from_real-world_data_logging_with_hearing_aids_and_wearables
*2 WHO:Environmental Noise Guidelines for the European Region(英文)
https://www.euro.who.int/en/health-topics/environment-and-health/noise/environmental-noise-guidelines-for-the-european-region
【本件に関するお問い合わせ先】
オーティコン補聴器 (デジタルマーケティング:林田、プロダクトマネジメント:渋谷)
TEL:044-543-0615 FAX:044-543-0616 E-mail:info@oticon.co.jp