BrainHearing: The Eriksholm Evidence
すべては「脳」を考えることから。
BrainHearing™がオーティコン補聴器のアプローチです。
聴覚ケアを取り巻く業界では、聞こえの問題とどのように向き合うかを考えるとき、長きにわたり「耳」を中心に考えるアプローチを取ってきました。しかしながら、このような「耳」を中心としたアプローチでは限界があるとして、オーティコンでは15年以上昔から、聞こえに関わる人の「脳」の働きを解明しようと取り組んでいます。
オーティコンが「脳」に着目したのには理由があります。
オーティコンにとって、補聴器とは単に耳の機能を補う機械ではありません。新たな補聴器を開発する際にその開発命題として掲げる目標は、その補聴器を装用することによって「ユーザーが、騒音下や聴き取りの難しい環境であっても、疲れを感じることなく、一人ひとりの聞く力や認知資源を活かし、一日を通してその人らしく積極的でいられること」にあり、その達成に向けてさまざまな技術や補聴器を開発し続けてきました。そのため他に先駆けて「耳」はもとより「脳」がはたす役割に着目することができたのです。
「Brain:脳」から「Hearing:聞こえ」を考える。耳を通じて届いた音の意味を「脳」がより楽に理解できるように助ける、私たちはこれを BrainHearing(ブレインヒアリング)と呼んでいます。
BrainHearing™アプローチのさまざまな側面について次回以降も引き続き特集していきます。
BrainHearing™(ブレインヒアリング)
『エリクスホルム研究センターが打ち出すBrainHearing™その根拠とは』
聞こえの問題を「脳」から考えるときに大事なことは、「聞こえ」というものは一人ひとり異なるということ、そこで「個別化」がキーワードになります。同じ音を聞いたとしても、実は一人ひとりその聞こえ方は異なるのです。
補聴器における「個別化」-オーティコン補聴器の特徴をお話しする際に、いまやお馴染みとなったこの言葉ですが、この基礎となる研究の始まりは、いまから15年以上も昔にさかのぼります。
「補聴器はオーディオグラム(聴力を主体)に沿ってのみデザインされるべきではなく、ユーザーの認知能力や、ユーザーが補聴器を使う日常環境を想定した上で、どのような補聴器セッティングが最適であるかを、装用者本人に注目してデザインされるべきである」これはエリクスホルム研究センターにおける基礎研究が導き出した方向性ですが、この知見は当時、(業界において)衝撃的なものでした。(Gatehouse et al., 2003, 2006a, 2006b)
オーティコン補聴器の開発を支えるエリクスホルム研究センターの研究者たちは認知聴覚科学*1の分野の確立に積極的に関与し、今日の補聴器設計に影響を与えるいくつもの発見をしてきました。その一例として、脳におけることばの理解のモデル化の開発があります。これは、聞き取りの厳しい環境下でことばの理解がいかに人それぞれで異なるのかについて、複数の調査を経て開発されたモデルです。(Rönnberg et al., 2008, 2013; Rudner 2012)
聞き取りが難しい環境下では、音の詳細な情報が必要となる
ある日常の一場面を想像してください。ある人が「最近、音量を大きくしないと好きなテレビ番組が良く聞こえない」と発言したとします。それについて会話を続けるうちに、その人が東京出身で、一方お気に入りのそのテレビ番組は、実は関西出身の芸人が活躍するお笑い番組で関西弁が多用されていることが分かりました。
この場面は何を表しているのでしょうか?
単に東京で育った人にとって生粋の関西弁を聞き取ることは難しいということのように思えますが、実はここでの聞こえづらさとは、この方にとっての聴取条件が最適な状態ではないということを表しているのです。
聴取条件が最適な状態になると
「聞こえづらさ」は「聞こえないと訴えている音声信号(=関西弁)」が、その人の脳の長期記憶の中に蓄えられている「音声パターン(標準語)」と適合しないために発生しているといえます。
お笑い番組では聞きづらさを感じていた同じ人が、今度は自身の「音声パターン(関東のことば)」と適合する標準語でアナウンサーが伝えるニュース番組を観る場合では、音量の変更や特別に意識を向けることなくニュースの内容が理解できます。
「音声パターン」の不適合といったことは、大したことではないように思えるかもしれませんが、このようなミスマッチ(不適合)は、いかなるものであっても脳に余分な負荷をかけることになります。言語理解(ELU=Ease of language understanding)モデルは、聴取条件が良好な場合と厳しい場合において、脳に届くその音声がどのように処理されるかを示しています。(Rönnberg et al 2008; Rönnberg 2003)。
この言語理解モデルによれば、音声信号が全く阻害されていない場合(最適な聴取条件下)では、私たちの脳では、主に潜在的処理は無意識に働くため、聞き取りに努力は要しません。
聴取条件が最適でない場合、何が起きているのか?
聴取条件が最適でない場合には、音声は顕在的、つまり意識的に処理されます。先ほどの例でいえば、テレビからの音声(関西弁)が、記憶の中にある言語知識(標準語)と合致していませんでした。
このとき顕在的処理では、思考の「黒板」としての役割を持つ脳のワーキングメモリー(作業記憶)を使うことが要求されます。私たちは聞いた音に対して仮の作業を行い、その意味を解読しようとします。そしてその話の内容を解読できない場合には、その情報をワーキングメモリー内に留めて思考の黒板を消し、もう一度解読し直そうとします。しかし、解読に時間がかかりすぎると、続く会話の内容を聞き逃すかもしれません。さらに、その難問を解明するまで留めておくのに十分なワーキングメモリーを持たない場合には、理解は失われてしまいます(Rönnberg et al 2011; Rudner et al 2011a;Rudner et al 2011b; Rönnberg et al 2008)。
「個別化」に重きをおいたフレームワークの誕生
同時にこの言語理解モデルは、難聴を持つ人々がなぜ聞くことに、より労力を必要とするのかについても言及しています。
ここまで最適な聴取条件下で、脳の無意識な潜在的処理によって聞き取りに努力を要さないというお話をしてきました。一方で、難聴がある人の場合、耳から得た音情報が耳を通じて脳へ届く際に、必要な情報が欠けてしまうため、脳がその欠けた情報を補って理解しようとするため、より聞くことに労力が必要となります。
この理由は、音信号が耳を通じて脳へ届く際に、難聴があることによって必要な情報が欠けており、脳はこの欠けた情報を補って理解しようと活動することに起因しています。さらに特定の補聴器ユーザーは、なぜ他の補聴器ユーザーよりも強力な補聴器の助けが必要なのかについてもこのモデルでは言及しています。
これらのモデルや研究がもたらした裏づけによって一人ひとりの聞こえの違いに注目した個別化へ重きをおいたフレームワークが確立され、2006年に発表されました。
オーティコンの個別化ツールは実生活における聞こえや認知の側面からの聴力診断の補助として打ち出され、研究が積み重ねられてきました。臨床の現場では聞こえの専門家によって、聞こえの認知力を試すテストなどに採用され、また補聴器カウンセリングや補聴ソリューションの選択などの場面でも積極的に使用されてきました。
しかしながら、臨床現場ではこれらのツールではまだまだ充分ではないとされてきました。これに応える形で、オーティコンはこれらの個別化ツールを自社の補聴器フィッティングソフトウェアと統合するとともに、2006年に発表されたフレームワークに基づく「補聴器フィッティングの際の個別化のツール」を2013年のアルタ補聴器で発表しました。
この個別化のアプローチに基づいた補聴器フィッティングは、調整プロセスにユーザー自身が積極的にかかわりを持つことと、また一人ひとりで異なる聞こえのニーズに応えることによりユーザーの満足度の向上につながることが実証されています。イニウムに引き続くイニウムセンスシリーズ製品の投入に際しても、さらに様々な開発が行われています。
今後オーティコンの BrainHearing™ について特集していきます。次回の特集では『大切な会話が同時に2つなされたとき・・・』についてお送りします。
エリクスホルム研究センターについて
エリクスホルム研究センターは、デンマークにあります。オーディオロジー(聴覚学)に関わる研究を、物理学、音響学、生理学、聴能学や工学に至るまで、幅広い分野の研究員と大学や民間企業の研究者との国際的協力により行なうため1977年に設立されました。
Find the IHCON poster (and other Eriksholm contributions)
Bramsløw, L., Vatti, M., Hietkamp, R., & Pontoppidan, N. H. (2014). Design of a competing voices test. In International Hearing aid Conference (IHCON) 2014. Lake Tahoe, CA, USA.
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■ オーティコン補聴器 (渋谷、山口)
■ TEL 044-543-0615
■ FAX 044-543-0616
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