BrainHearing: Supporting how the brain makes sense of sound.
すべては「脳」を考えることから。
BrainHearing™がオーティコン補聴器のアプローチです。
人は脳で聞いているというお話を続けていきます。「脳がどのように音信号のもつ意味を解釈しているのか」を理解するためには、脳の中で同時並行で処理されているさまざまなプロセスを見ていく必要があります。今回の特集では、脳が、音の意味の理解に際して、どれだけそれを支えているのかについてご紹介します。
「Brain:脳」から「Hearing:聞こえ」を考える。耳を通じて届いた音の意味を「脳」がより楽に理解できるように助ける、私たちはこれを BrainHearing(ブレインヒアリング)と呼んでいます。
BrainHearing™アプローチのさまざまな側面について次回以降も引き続き特集していきます。
音の意味を理解する脳の働き
どこから音が聞こえるのかが分かることで、人は自身が聞きたい特定の方向に集中することができます。人は特定の方向へ注意を向けることができると、それ以外の方向からの音に邪魔されづらくなります。例えば、部屋の中で耳を澄ましてみると実はエアコンや冷蔵庫などさまざまな音が聞こえていますが、聞きたい音へと意識を向けることができれば、もはやこれらの音の存在は気にならなくなります。
このような処理が行われることで、脳はできるだけクリアな音情報にアクセスできるようになり、音を解釈するための脳の長期記憶(蓄積されたその人の経験に基づく記憶)を活用して音の持つ意味を理解することができます。
聞きたい音へと意識を向けることができれば、それ以外の音は気にならない
まず脳は、音の断片を整理して、解釈できるようにしていきます。例えば、バックグラウンドミュージックが流れる部屋の中で、複数の人々が会話をしているとします。このとき脳は両耳からの情報を使って、どこにどのような音があるのか、音源との距離はどれくらいかなどその空間を捉えようとします*3,*4。
脳で音がどのように処理されるのか、次の状況を考えてまいりましょう。友人宅での会食に招かれたとします。3人の友人があなたの前に座っており(図1)他の友人たちは後ろ側に座っています。
脳で音がどのように処理されるのか、見てまいりましょう
図1の音環境で健聴者の脳がどのように音を理解するかを示したものが図2です。
脳は、周囲の環境で何が起きているのかを捉えるため、途切れることなく両耳で音を追い続けています。この例での友人たちとの会食の席では、脳は友人たちの会話などの有意な音(フォアグラウンド)とBGMやお皿の音など背景音(バックグラウンド)について、ひとつひとつの音源をそれぞれ分けます。これによって、有意な音と競合する背景音の中から自身が聞きたいと思う音へ集中することができます。
この「捉える、分ける、集中する」の3つのプロセスが、聞きたい音について脳ができるだけ明瞭な情報を得られるようにサポートすることにより、脳の聞く為の努力を最小限に抑えつつ、聞こえた音の意味を理解するための大きな手助けとなります。
難聴によって、聴取環境から得られる音の情報が限定されてしまうと・・・
難聴があるにも関わらずある何も対処をしていない方は、図3で示すように事情がまったく異なってきます。難聴によって、聴取環境の中で受け取ることができる音の情報量が非常に限定されてしまいます。
結果として、ごく限られた周囲の環境情報のなかで不明瞭な音の情景が脳に届くことになります。音の持つ詳細な情報が欠けてしまうことで、脳は一つひとつの音の違いを区別することができず、結果として周囲の状況を適切に捉えることと聞きたい音とそうでない音を分ける働きを効率的に行うことが困難になります。
難聴があることによって、音の情報が欠けてしまうと・・・
聞きたいと思う音に、邪魔な音が混じり合うと、脳は本当に聞きたい音に集中することが難しくなり、ひいては脳が音の意味を理解するためには、より多くの努力が必要になります。それというのも、音を理解するプロセスで、脳は、不足している情報を補うためにさらなる労力を必要とするからです*6。音信号や情報が足りないとき、人は欠けている情報を補おうとします。これは脳が疲れる原因になります。健聴者であっても思い当たることだと思いますが、たくさんの人があふれるパーティ会場などで集中して相手の話を聞こうとすると、相手の話を理解するのが非常に困難になるのと同じです。
高い周波数の音の聞き取りを困難とされる難聴の方は、特に「サ」や「ザ」などといった子音の聞き取りが困難になります。また背景に騒音があるとさらに難しくなります。例えばにぎやかな会食の場など聞き取りが難しい環境では、会話についていく際に記憶や経験などに頼ることになります。交わされる会話が良く知っている話題であれば、意味の推測に役立ちます。しかしこの場合に、全ての音が明瞭でクリアに届く場合と比較してさらなる精神的エネルギーが必要になります。
騒がしい環境での聞こえの鍵となる脳のワーキングメモリ
状況に合わせて、話されている内容を短期的に記憶しながら、会話をつなげるために 、脳の作業記憶とも言われるワーキングメモリが使うことが必要になります。自分自身の記憶の中から必要な情報を呼び出したり、蓄積(プール) された記憶に戻したりする働き、他にもさまざまな働きをつかさどるのもワーキングメモリです。
私達の脳は聞いた音に対して仮の作業を行い、その意味を解読しようとします。そしてその話の内容を解読できない場合には、その情報をワーキングメモリ内に留めて思考の黒板を消し、もう一度解読し直そうとします。しかし、解読に時間がかかりすぎると、続く会話の内容を聞き逃すかもしれません。さらに、その難問を解明するまで留めておくのに十分なワーキングメモリを持たない場合には、理解は失われてしまいます。
騒がしい環境で会話を聞く際には、このようにワーキングメモリで更なる作業が行われるため、相手の話について考えを巡らせたり、反応したりすることが難しくなります*6。
ここまで、音の意味の理解を支える脳の働きについてご紹介してきましたが、会話を聞いて、会話を楽しむには十分な精神的エネルギーが保てること、つまりより脳に疲れを感じさせない聞こえが必要ということでもあります。
聞こえの問題が脳に与える密接な影響
今回ご紹介しました内容によって、難聴をそのままにしておくことがどれだけ脳に密接に影響を与えるのかについて知っていただき、また補聴器といった聞こえのリハビリを行うことが活動的な社会生活を支え、またQOL(生活の質)を高めることにつながるということの理解を深めていただく一助になれば幸いです
【参照文献】
1. Shinn-Cunningham B.G (2008). Selective Attention in Normal and Impaired Hearing, Trends Amplif, 12, 283
2. Darwin, C. J. (2006). Contributions of binaural information to the separation of different sound sources. International Journal of Audiology, 45 (Suppl. 1)
3. Kidd, G., Jr., Arbogast, T. L., Mason, C. R., & Gallun, F. J. (2005). The advantage of knowing where to listen. Journal of the Acoustical Society of America, 118
4. Wightman, F.L., and Kistler, D.J. (1992). The dominant role of low frequency interaural time differences in sound localization. J. Acoust.Soc. Am. 91
5. Arlinger S., Lunner T., Lyxell B. & Pichora-Fuller M. K. (2009). The emergence of cognitive hearing science. Scandinavian journal of psychology, 50(5)
6. Rönnberg, J., Lunner, T., Zekveld, A.A., Sörqvist, P., Danielsson, H., Lyxell, B., Dahlström, Ö., Signoret, C., Stenfelt, S., Pichora-Fuller, M.K. & Rudner, M. (2013). The Ease of Language Understanding (ELU) model: Theoretical, empirical, and clinical advances. Frontiers in Systems Neuroscience, 7, 31 7.
7. Ear Foundation (2014). The Real Cost of Adult Hearing Loss: reducing its impact by increasing access to the latest hearing technology. www.earfoundation.org.uk
特集をお伝えするにあたり多くの基礎研究が行われている研究所のひとつとしてエリクスホルム研究センターの存在があります。エリクスホルム研究センターは、デンマークにあります。オーディオロジー(聴覚学)に関わる研究を、物理学、音響学、生理学、聴能学や工学に至るまで、幅広い分野の研究員と大学や民間企業の研究者との国際的協力により行なうため1977年に設立されました。
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